2026年、台湾の旅

旅程:2026年5月2〜6日

僕らの旅が、ずっと続きますように

映画「青春18x2」を観て、印象に残った台詞がある。「僕らの旅が、ずっと続きますように」。この映画は、『旅』と『台湾』と『ミスチル』という私の好きなものが全て掛け合わさって、ひとつに結晶された作品で、運命めいたものを感じた。その舞台のひとつが、台湾の南部にある街「台南」であり、いつか台南を訪れてみたいとずっと思っていた。

もうひとつ「路」という小説では、台湾に新幹線を走らせるという物語で、それを読んで以来、台湾新幹線に乗ってみたいという思いがあった。

連休で5日間の旅日程ができ、それならば、新幹線に乗って台南へ行こうと思った。旅のはじまりである。

旅に効率はいらない

成田エクスプレスに乗ればラクに速くいけるけれど、別に急ぐわけでもなく、お金も安くいけるからローカルでいってもいいか、でもやっぱり成田エクスプレスが、とかウジウジ悩んで、武蔵小杉を通り過ぎ、渋谷駅でやっぱり乗るかとバタバタあせっていた。なんか、旅立ち前から焦っていて、ぶれているのが気になった。

結局、渋谷から成田エクスプレスに乗り、座席で一息ついたとき、これが正解だったなと思った。お金を節約することよりも、お金を使って、ゆとりという時間を買い、疲労防止という健康を買う。そういう思考が今の自分には必要のようである。

地球の歩き方を読んだり、ネットで旅情報を収集したりしながら、あれもこれもしたいと欲が出てきて、頭の中で、「旅の効率」を求め始めた自分がいる。そわそわと焦り、足元も浮ついている。ふと冷静になった。落ち着け、落ち着け、クールダウンが必要だ。旅に効率は要らないのだ。時間をたっぷりかけて、遠回りしていこうぜ。

成田空港の第三ターミナルは、すでに20時過ぎで、連休中だけれど、残りのフライトもほとんどなく、思ったよりも閑散としていた。これはこれで悪くない気もする。

機内では、初めて非常口座席にあたった。非常時に手伝いの役割が与えられるらしく、足元に荷物が置けないのかと知った。その分、座席スペースが足を伸ばせるくらい若干広めで、オトクな感じもした。

22時40分にジェットスターは離陸。寝ておこうと思いつつも、眠れているような眠れていないような微妙なふわふわした時間だけが過ぎていく。夜便はなかなかしんどい。することもなく、気がついたら着陸アナウンスが流れた。

深夜の空港にて

未明1時に到着。入国カードを書こうと思ったら見つけられず、イミグレの前でみんながスマホをいじっているのをみて、なんだ?と思ったら、壁にでっかいQRコードのポスターが貼ってあった。そうか、ネットで申請するのか。だいぶ変わったなぁと思い、焦りながらも何とか入力して、入国審査を通過した。銀行もすべて閉まっている時間帯で、小銭を手元にもっておきたいと思い、ATMで1000元を引き出す。

1階のフードコートの座席で、仮眠をとる人が大勢いた。ちょうどいい席を見つけて、横になるが、あんまり寝付けない。ウトウト眠っては目が覚めて、硬いベンチで身体も痛くなる。気がついたら4時半になっていた。すぐ横の「一乃軒」というカフェでホットコーヒー65元を買って、コーヒータイム。

今回、初めて海外用のe-SIMを利用。サクッとした調べ物に便利だと実感。5時半になり、そろそろ動き出す。銀行窓口も空いたので、10万円分を両替して、MRT駅へ。始発電車が動き出した。

南へ

今回は、台南へ向かう。そして初めて台湾新幹線を利用してみる。桃園駅で当日チケットもスムーズに買うことができて、便利な仕組みだと時間。小さい子どもが初めて新幹線に乗るような、そんなワクワク感が自分の中で蘇る。駅のセブンイレブンで、コーヒーと台湾おにぎりを購入。店員さんは、おにぎりを電子レンジで温めることを教えてくれた。彼のネームプレートには「先生」と書かれていた。

新幹線は清潔で快適だ。乗り心地もいい。6:47に出発、指定席で1200元。日本よりも安く感じられる。景色を見たり、眠ったり、コーヒーを飲みながら、列車は南へ。高雄にいったのは2003年のことだから、あれからもう23年の歳月が流れている。最近は、台湾にきてもタイペイあたりをウロウロすることが多かったから、新しい旅のカタチだなと思った。地方やローカルをめぐる、第二段階に進んだ。台湾旅行2.0みたいな感じだ。

台南を歩く

8:26台南駅へ到着。気温が高く、夏を感じる。新幹線駅から台南駅をつなぐローカル線は、古びていて素朴で、地域で暮らす人たちの日常がある。

台南駅は古びていた。お目当ての牛肉湯の店の前には、行列ができていたので、先に近くのお粥の食堂へ向かった。サバヒーという魚が、台湾名物であるということは、以前に一青妙さんの本で読んだ記憶がある。阿敢粥は、すぐ入ることができた。おばちゃんにおすすめされるまま、サバヒーの粥にカキも入れてもらう。他に青菜炒めと魚腸ソーセージもつける。300元。

すぐ近くにある「西羅殿牛肉湯」に並んでみる。回転は速く、30分ほどで着席することができた。店を切り盛りする大将が男前でかっこいい。「ニホンジン??」と、二カッと笑って話しかけてくれたのが、なんだか嬉しかった。牛肉湯と魯肉飯と野菜炒めを注文し、310元。席で食べていたら、隣の細身なお姉さんが、調味料を指さして、これをスープに入れるんだよ、と身振り手振りで教えてくれた。その心遣いがなんだか暖かい。台南っていい街だなと思った。

時間を止める

お腹がいっぱいになり、寝不足と暑さのせいか、疲れを感じてきた。大きな交差点の角にある、石造りの建物の中に、雰囲気がよさそうなカフェを見つけた。DONUTESというお店で、アイスコーヒーを頼む。思ったよりも甘いことに驚き、そしてホッとした。2階席は広くて席もゆったりしており、涼むことができた。

ここで旅の時間を止める。満腹、睡眠不足、疲労感、旅立ちのテンションと旅テンションのはざまにある、谷みたいな時間帯。これはただのそういう時間だから、焦らなくてもいい。長い旅の中で、立ち止まってもいい。汗をかいたTシャツを変えて、コーヒー飲んで、手帳につづって、チャットGPTで会話していたら、気持ちも復活してきた。

カフェを出発し、とりあえずホテルに荷物でも置こうと思い、ホテルへ。古いビルの1フロアの中にあるhope hotelは、内装が新しく、デザインにも若々しさがあり、若いスタッフも英語で丁寧に接客してくれた。時間前だったけれど、チェックインすることができ、部屋に入ることができた。スタッフに感謝。

荷物が軽くなり歩きやすくなった。渡小月という担仔麺が有名なお店へ。あっさりしたスープに、濃い味付けの具を混ぜると、味がひきたつ。全体的に優しさを感じる一杯だ。春巻きは台南名物らしく、天ぷらのようなサクサクがあり、これも美味しい。店の内装は雰囲気がよく、すぐ横で屋台のキッチンのようなところで担仔麺を作る工程を観ることができた。

外を歩くのが暑いので涼しいところへ逃げ込む。台南市美術館へ。1号館と2号館があった。1号館は、かつての警察署の建物であったらしい。中庭にそびえる大木が印象的であった。気になった作品として、絵画そのものが傾けて展示しており、絵の中では傾いているはずのシーソーが平行に見える。傾いているのは、世界か、そのものか、はたまた自分の世界観なのか。問いかける。

孔子廟は、騒々しい街の中で、静けさを保っているの場所で、平和的な空気が流れている。ベンチに座って、吹き抜ける風がなんだか心地よく感じた。

近くにある「ナローカフェ」に立ち寄った。大通りに面した入口は、建物と建物の狭い隙間を通り抜けて、入口にたどり着く。「バケモノの子」で異世界に紛れ込むシーンを思い出して、重なった。メニューの単価は高めに設定されている。フォルモサ・ジュースが220元。金柑とオレンジとミントが混ざり、スッキリする味わいだった。古びた窓からは、さっき訪れた孔子廟のある広場が見えた。西陽の射す時間帯。店内はレトロな雰囲気と、エモいカフェ・ミュージック。人気店なのか、席は埋まっていて、わりと賑やかだ。昔、近所にあった「楓カフェ」を思い出し、似ているような気がした。あのとき、仕事に煮詰まっていて、台湾行きの航空券をスマホで予約した。あれがもう9年ほど前のことになる。人生に行き詰まると、台湾を訪れる自分。ぼんやりとしていて、映画「青春18☓2」のことを考えた。ミスチルの曲が頭の中を流れていて、あの映画のシーンが蘇った。

カフェを出て、箱根養生館というマッサージ屋さんへ。かなりゴリゴリされて、気分転換になった。

日も暮れてきて、花園夜市まで歩いて向かった。バスかどうか迷って、30分ほど歩くと到着。向かう人の流れと、その先に広がる光。台湾の夜市は、お祭りだ。鴨肉油飯、どでかいフライドチキンのぶつ切り、台南名物のシチューが乗った挙げた食パン、目につくものを食べ続けていたら、お腹がいっぱいになり、レモンジュースを買って飲んで、引き上げる。ハッシュポテトっぽいお店の行列が気になったが、少し並んでやめておいた。また今度。

ホテルへと向かう夜道。BUMPの「レム」を口ずさんでいた。満月が建物の隙間から見えた。今日は満月だったかと気づいた。神農街のそばを通って、チラリと覗いて、また明日にでも来てみようかと思った。一日フル回転で疲れ切って死んだように眠る。

朝ごはん

近場で朝ごはんを食べようと散歩してたら、everyday cafeというお店が気になって、立ち寄る。メガネをかけた若いお兄さんがニコニコと話しかけてくれて、雰囲気がいい店だと思った。朝早く、2階席はまだ誰もおらず、貸切状態で、なんだかいい。アイスコーヒーを飲む。ノートを開いて1時間ほど、ジャーナリングしてみる。店内の壁には、「人生苦短、珈琲倒満」と書かれている。カフェというサードプレイスは、自分の心を豊かにしてくれる。ひとりだけの空間が好きだ。自分と向き合い、自由に思考を書き出してみる。自分は、やるべき仕事をやっていると心が落ち着くようだ。今の仕事はまだ不慣れで、その基盤が揺らいでいるような気がする。「わかんねー」とか「こえー」とか心の声がしている。

豪味道というお店に立ち寄る。とろとろの優しい味のスープは、角煮のような肉の塊と、魚のつみれ、麺が入っていて、とても美味しい朝ごはんだった。店主に聞いたら「米粉旗魚」「三枚肉」というメニューだった。これはまた食べたい。

朝ごはんをはしごして、せっかくの台南なので、サバヒーをまた食べる。阿堂粥。昨日とはまた違う味がした。日本語を喋る元気なおじさんがメニューをとってくれたのが印象的だった。

周囲を歩いていたら、映画「青春18」に登場した映画館の前を通りかかり、その偶然が何だか嬉しい。

またひとつ自由になる

安平へ行ってみようと思ったが、バスの仕組みがよく分からない。乗ってみるか。赤崁楼の前のバス停から、エイヤで乗り込む。バスに乗れた。車内は涼しい。怖くなって、ひとつ自由になれたかもと思った。台湾でバスに乗ったのは実は初めてだったかもしれない。最近、この「やってみよう」の姿勢が欠如してやしないか自分。たとえば、試したいことリスト100みたいなものを作って実践してみたらどうだろうか。

ゼーランディア城へ到着。赤レンガの建物が印象的で、なるほど、ヨーロッパを感じることができる。歴史展示をじっくり見ながら、鄭成功は英雄だったんだなと気づく。周囲を散歩しながら、木が音を立てているのに気づいたら、キツツキが木を本当につついていた。初めてみたな。

安平樹屋。ツリーハウスという表現がわかりやすい。古い建物に、木がからまり、それは天空の城ラピュタのようで、昔訪れたカンボジアの遺跡を思い出した。迷路みたいで面白く、自然の力をひしひしと感じた。どれだけの歳月が流れて、こうなったのだろうか。台南で一番おもしろい場所かもしれない。

担仔麺を食べて、市内へ戻る。カフェDonutesでカフェモカを飲み、ひとやすみ。このお店もお気に入りだ。

集品蝦仁飯で、エビの炊き込みご飯を注文し、つみれスープと目玉焼きをつけて、夕食。

18時にホテルへ戻り、そのまま疲れて眠ってしまった。

旅モードがオンになる

翌朝、everyday cafeをもう一度訪れて、珈琲を飲む。昨日と同じように、カジキマグロスープのお店に行ったら、店主が憶えていてくれて、ニコッと笑ってくれた。そのリピーター感が嬉しい。店主はスマホで、「三枚肉はまだ準備できてないぜ」と訳した画面を見れてくれて、それがなんだか面白かった。

近くにあった「台南順天肉燥飯」という店が混雑してて、ここは美味しいかもと直感し、入ってみた。味付け魚粉がのった魯肉飯は、謎のうまさとしっかりした味付けで、これは大当たり。たまたま見つけたお店だからだろう。嬉しくて、旅の面白さを感じた瞬間。4日目にして、ようやく旅モードがオンになってきたかと思った。

バスで台南駅へ向かう。車内で、乗り込んできた少年が小銭がないようで、他のお客さんに両替をお願いしているように見えた。おじいさんが小銭を渡し、奢ってあげるから持っていけというように言っているようだった。少年はおじいさんにお礼を言っていた。どちらの態度も気持ちが良い。その光景にこちらの心も温まった。

台南駅からローカル線で新幹線駅へと向かう。映画「青春18」が見たいと思い、「記憶の旅人」が聞きたくなった。

新幹線にはスムーズに乗ることができた。タイペイへ。

雨の匂い

街に雨の匂いがした。台北の天気は、雨だった。雨の台北なんて初めてだったろうか。以前、雨が降っていたことはあっただろうかと考える。やや肌寒さを感じて、長袖羽織るくらいがちょうどいいなと思い、5月に来たことがなかったことを思い出した。

前回食べれなかった胡椒餅を買って、ほおばる。通りがかった自助餐の食堂が気になって、入ったら、ベジタリアンな店でけっこう賑わっていた。物足りなさと同時に、味付けもしっかりしていることに驚く。これはこれで新しい経験だ。

甲上という小さな屋台の台湾おにぎり屋さんも目に入り、思わず買う。これもうまい。直感が冴えわたる気がした。紫米で、具だくさん、味もしっかりしている。高菜の辛味も効いてていい。地下街のベンチでほおばった。

MRTで台北市立美術館へ。空港が近く、飛行機が何度も低空飛行してきて、圧巻だ。現代アートにどっぷり浸かる。異国でアートに触れるのもいい。台湾の昔の映像が流れるエリアがあり、じっくり見入った。目に焼き付く。

未来工房での雨宿り

円山駅の近くのカフェが気になり、入ってみる。店名がFuture Factoryと書かれている。未来工房とでも訳すのだろうか。老夫婦に、若いカップル、ラップトップで勉強か仕事か作業している青年、のんびりした時間が流れていた。内装もすてきなお店だ。窓の外にはまだ雨が降り注いでいる。雨宿りの時間。おまけみたいな時間。旅の余白。日は暮れつつあり、空も暗くなってきている。この後の予定をどうしようか。日本人カップルが店内に入ってきた。そろそろ出発。

ジーローハンを食べ納めて、千里で台湾式マッサージ。身体をしっかりメンテナンスするのも旅先では大切だ。

台北駅の構内をうろつき、静かな空間に、適度なピアノの生メロディが流れていた。そろそろ帰路かなと思った。

旅のあとがき

深夜2時40分に飛び立った飛行機が、成田空港に着陸しようとしている。そのときに書いたメモを記す。

行きと帰りで、夜行便が2回という今回の旅。なかなか眠れずに身体はしんどい。窓の外には千葉の田んぼが広がっている。長めの旅に出たのが久々な気がした。しばらく日帰りみたいな弾丸な旅ばかりだった。旅先で己と向かうなどといっても、結局は日常があってこその非日常で、旅が日常になってしまえば、それはもう非日常ではなくなってしまう。自分にとって、旅は非日常でありたい。

心はなかなかときほぐれず、年齢を重ねれば、旅の形も理想もまたあるべき姿を変えていく。経験が積み重なることは、同時に新鮮な感覚が薄れていく。

なんだか正解をなぞりがちだなと、思った今回の旅だ。スマホが簡単に使える環境や、地球の歩き方を眺めること。正解がないと不安になる。もう、そういう時代かもしれないし、そういう年齢になったのかもしれない。同じところを結局グルグルしている。

そんなことを書いていたら、機体が突然着陸した。無事に還ってこれて、ああこれでいいんだと思う。仕事や家庭、基盤になるものを固めるべき今なのだ。居場所は遠くにはなくて、ここでの暮らしがある。たまに逃げ込む場所として、旅はある。それでも旅を続けていこうぜ。

これを書きながら、ふとあのカジキマグロスープの食堂の店主の笑顔が繰り返し浮かんできた。台南はいい街だった。カフェの店員さんとか、いろんな台湾人から温かみをもらったのだ。それに感謝感謝。

旅はまだ続く。人生は続く。道は続いていく。

【完】