旅程:2025年11月11−12日
■プロローグ
今年の初めに「2025年やりたいことリスト100」を書き出した。その中に、「知覧の特攻会館を訪れたい」という項目があった。鹿児島までの距離を考えると、一泊は必要であった。できれば平日休みで行きたいという思いもあった。仕事が一段落した11月、旅立つことにした。
■鹿児島へ
羽田発6:40、全日空便。始発列車に乗るために4時半に家を出発する。旅立ちのときは、くるりの「ハイウェイ」を最初に聞く。自分の旅スタイルのイントロだ。何かでっかいことしてやろう。その歌詞が心に響いた。秋が深まり、冬の寒さに似てきていて、肌寒いけど、心地良い。夜明け前の時刻、月は下限の半月で、空は曇りなく星がまたたいてる。駅までの道。
駅前のコンビニで、水素焙煎コーヒーを購入した。店員のお兄さんは、朝から爽やかな接客対応で、こっちまで気分が良くなる。ありがたい。
「ノルウェイの森」を相棒に、羽田へ向かった。こんな平日の早朝でも、羽田空港は混雑していた。機内の安全ビデオは、ポケモンとコラボしていて、全日空なかなかうまいことやるなと思った。
離陸。窓から見えた東の空は、分厚い雲から朝日の光線が漏れていて、なんだか神々しい。眼下では、静かな東京湾の海上に、貨物船たちが忙しく行き交っていた。地平線は、都市の建物がデコボコとラインを描いている。空と、海と、その間のビルのラインが、ひとつの絵みたいに見えた。やがて富士山が見えてきて、空から観るときれいだなぁと率直に思えた。
■知覧へ
8:45、鹿児島空港に到着。空は曇っている。前きたのはいつだっけと記憶を紐解く。予約しておいたレンタカーを借りて知覧へ向けて出発。途中から雨が降ってきた。
11時過ぎに知覧へ到着。思ったより遠く、鹿児島も広いなと感じた。先に「知覧茶屋」で昼食。豚骨と鶏ごぼう釜飯のセットを注文。20分ほど待つ。豚骨は、角煮のように柔らかい肉の塊であった。鹿児島の郷土料理らしい。味も濃いめで、コメがすすむ美味しさがあった。骨までとろけているような食べやすさだ。釜飯もできたて熱々で、優しい味わいであった。
釜飯は注文してから待つ時間が長いけれど、人生には、こんな風にゆっくり待つような時間が必要かもしれない。そんなことを考えた。
12時に「知覧特攻平和会館」に到着。膨大な量の手紙や遺品が展示されていた。印象に残ったのは、家族への想いだった。両親への感謝、家族への気配り。健康に気をつけてというメッセージは、「生きること」に対する強い想いを感じた。気づいたら2時間くらい経っていた。時間が経つことも忘れてしまうほど夢中になっていた。
平日なのに来館者も多く、中高生の団体やアウトバンドのツーリストたちで館内はとても混み合っていた。
近くにある観音堂で手を合わせる。英霊たちに向かって感謝の気持ちが沸き上がった。
14時頃、武家屋敷の庭園を散歩する。江戸時代にタイムスリップしたような感覚で、保存状態がとてもいいように感じた。雨が降っており、より風情が掻き立てられるようだった。
「お菓子の小田屋」で和菓子を2つ購入。「薩摩わかあゆ」と「かるかん饅頭」。こういった地域ならでのは銘菓や和菓子に旅の面白さを感じる年齢に自分もなったなと思う。
■指宿
1時間ほど山道を車で走り、海沿いの道路に出た。指宿温泉はこちらという標識を見ながら南へ向かった。
「砂むし会館砂楽」に到着。砂むし温泉は初めての経験だ。裸の身体に浴衣を着る。砂浜に掘られたくぼみに身体を寝かせて、係の人がシャベルで砂を被せてくれる。生き埋めされるような感覚だ。砂の重量を感じる。砂の中が本当に熱いことに驚いた。ふくろはぎの後ろ側が焼けるように熱くなる。10分くらいが目安と言われていたが、本当にそれくらいで汗がびっしょり出てきた。珍しおもしろい経験をすることができた。砂の後は、シャワーを浴びて、温泉に浸かり、気分はとてもスッキリ。指宿まで遠征してよかった。
■鹿児島の夜
8時前に鹿児島市街へ戻ることができた。レンタカーを返して、宿へチェックイン。今回の宿はHOTEL NOIR。新しい建物で、システムも内装もスタイリッシュで、しかもリーズナブルだ。夕飯がてら、街へ繰り出す。宿へ向かう途中に見かけた、飲み屋横丁に入ってみた。かごっまふるさと屋台村というところ。
こういう横丁は、旅先でもひとりで気軽に入れることができて、ありがたい。小さな店が10数件あり、どこに入ろうかフラフラ迷っていたら、あるお店で、メガネの店員さんと目が合い、直感的にここかと思った。「桜島灰干し家 ゆうすい」というお店。
カウンターでは、隣に座ったハジメマシテの人たちと自然と会話が生まれ、地元の人や、ビジネスでたまたま鹿児島に来ている人、自分みたいに旅人など、いろいろな人が入り混じっていた。一人者でもグループでも来ている人でも、関係なく打ち解けていく。面白かったのは、屋台村の中で、はしごをするかのように、別の店に行った人がまた戻ってきたり、自分もまた連れられて、はしごをしたりしていた。この、いってらっしゃいとか、ただいま、おかえりとかの空気がとてもいい。アットホームな感じがあり、一緒に飲んだ人たちも、おもしろくて、マナーもしっかりしていて、心地がよいオープンな人間関係があった。長崎でも似たような夜があったことを思い出していた。九州はこういう土地なのかもしれない。
おすすめされた、「霧島うなぎ白焼き」という桜島灰干し料理が絶品でとても美味しかった。すすめられたものは試してみる価値がある。美味しさ以上に、その思い出にずっと価値が残っている。温泉で割るという芋焼酎も自分には初めてで新鮮だった。
最後に豚トロで鹿児島ラーメンを食べて、宿へ戻る。旅先で、楽しくて最高の夜をくれた仲間たちに感謝感謝。豊かな気分で眠りにつく。
■
翌朝。疲れのせいか、なかなか起きられず、7時頃に目が覚めた。路面電車に乗って、繁華街である天文館方面へ移動。
定食屋「おちゃわん」へ。極上トロサバ定食を注文。土鍋で炊きあげたコメはそれだけであまさがあり、削りたての鰹節も香ばしく、自分で温める薩摩あげ、炭火焼きのサバ、さまざまな小鉢たち。そして、茶漬けで最後を締める。極上の朝ごはんであった。豊かな朝になる。
レンタカーを借りて出発。途中の桜島パーキングで「しんこ団子」が気になる。醤油味のおだんごで素朴でとても美味しい。
市街から走ること2時間。11時前に霧島神宮へ到着。展望台の向こうに海が開けていて、桜島が見えた。霧で霞んでいて、ぼんやりとした山並み。
本殿を参拝した後、裏道を通り、山神社という場所へ向かった。人ひとりいない、こじんまりとした空間と静けさ。神社仏閣に我が身を置くことで感じるもの。過去の後悔だとか、未来への不安だとか、他の誰かからの評価とか他者への批判とか恐れだとか、そういったものを思い出した後、「今、ここに自分があること」からブレてしまっていることに気づく。静かにしていなさい、と自分が自分に言う。
ふと「神宮」と「神社」って何が違うんだろうと思った。あらためて調べてみると、神を祀る場所は全般的に「神社」とよび、その中でも皇室と縁深い場所が「神宮」であるらしい。なるほど。
昼食には霧島温泉エリアにある「郷土料理 さつま路」というお食事処へ。年配のご夫婦が切り盛りしているらしく、小さな古民家にお邪魔させていただいたような雰囲気だ。他にお客はおらず、少し不安になってしまう。「地鶏そば定食」を注文。生の鶏の刺し身は珍しく、なますと生姜醤油と一緒に食べるのがおすすめと教えてもらった。そばは手打ちのようなで、柚子胡椒といっしょに食べる。薩摩郷土料理を味わうことができてよかった。
最後に温泉に入っておきたいと思い、霧島ホテルへ。ここの「硫黄谷庭園大浴場」が事前評判がよく、期待して訪れたが、たまたまメンテンナンス日に当たってしまい、この大浴場には残念ながら入れず。。。ただ、内風呂に入ることはできて、硫黄泉のお湯は最高に素晴らしかった。思い通りにならず、くじけてしまうこともあるけれど、旅はこれでいいのだ。
■あとがき
帰りの飛行機内で、メモを記す。
最後に空港で食べたさつま揚げでお腹がいっぱいで眠くなっている。羽田行きは混雑している。ビジネスパーソンも多いし、そうじゃない人たちも多い。みんなどこへ行くのだろう。どこへ帰るのだろう。
旅の時間があっという間に終わり、自分も帰る。できたこと、できなかったこと、ごちゃまぜだけれど、来たことに後悔なんて一つもない。いつも思う。
昨日の夜は、鹿児島の人たちと適当に酒を飲み交わして、楽しい時間だった。長崎でもこんな漢字だったっけ。九州という土地柄なのか、なんかオープンで温かい。
人と接した記憶が旅を面白くする。だから記憶が強い。今回は車の運転時間が長く、薩摩の広さを肌で実感した。知覧、指宿、霧島。巡り巡った。山が多い土地だなと思った。
1日目は、知覧特攻会館、指宿すなむし風呂、夜の横丁での飲み交わし。2日目は、霧島神宮と霧島温泉。今回は食事の選択どれもが当たりに当たって幸運だった。釜飯、土鍋ご飯、郷土料理。なかでも一番は白うなぎだ。
途中、疲れてしまうこともいっぱいあったし、淋しさもあって、ひとりの孤独さと人恋しさがあったり、仕事のことを思い出して嫌気がして、でも仕事がなければ休みもカネもないよなと、ありがたさも知っている。
誰かと旅することに煩わしくなったり、誰かがいれば楽しいはずだと思ったり。そのあたりを行ったり来たり。
鹿児島という土地が、自分の故郷の一つであること。いつかまた子どもたちを連れてこなくてはと思ったこと。
日常に帰る。それでいい。
【完】
