2024奈良井宿

2024年、奈良井宿(ならいじゅく)の旅

旅程:2024年4月28−29日

■プロローグ

もう10年近く前になるかもしれない。会社の先輩が、夏休みに青春18きっぷで長野県に行き、江戸時代の宿場町を訪れて、すごい良かったんだよ、という話をしていた。地名も聞いた気がするけれど、分からず、ぼんやりと宿場町が残っているのか程度の感想だった。時は流れて、昨年末、日曜朝の旅番組で、長野県の宿場町が出ていた。奈良井宿という場所で、「ならいじゅく」と読むらしい。そこで、前の先輩の話を思い出した。この場所かもしれない。急に行きたくなり、2024年のやりたいことリストに追記した。行き方を調べると、横浜からの日帰りは時間的に難しそうだ。4月の連休に2日間の時間が取れた。それが旅のはじまり。

■奈良井宿へ

早朝4:45、家を出発。西の空には、まだ8分の月が浮かんでいた。肌寒さはありつつも、天気は良好だ。

奈良井宿は長野県の山奥にあり、横浜から電車を使っても、片道だけで5,6時間はかかりそうだった。なんとなく始発列車で行きたい気分だった。始発に乗ることに意味がある気がした。そこには乗り換えの効率とか関係なく、ただ流れるままに向かってみようと思った。綱島からの始発列車は、さまざまな人が乗っていて面白い。昨日を引きづって帰路に着く人も、今日という一日を始める人も。わりかし混んでいる。始発列車の記憶は、高校時代の弓道部だ。試合の日、1年生は、始発で試合会場に向かうという伝統があった。そこには効率などなく、ただ始発の乗ることに意味があったのだ。苦い辛い思い出ではなく、バカバカしいほどの青春感があって、それは自分にとって良い思い出になっている。

6時過ぎに八王子駅へ到着。早朝の時間なのに、登山に向かう人たちでホームは賑わっていた。文庫本「レキシントンの幽霊」を読みながら、たまにウトウト眠りながら、電車は松本方面へと向かう。列車は山の中の谷を進み、トンネルを何度もくぐりぬける。列車内に大勢いた登山客は、駅に停車するごとに少しずつ下車していき、それぞれの山へと向かうようであった。窓の外の向こうには高い山々の峰が広がっていた。地図を見ると、南アルプスのあたりのようだ。山頂には白くてきれいな雪が見える。美しいと思った。

■甲府にて

4時に起きて朝食をとってなかったので、だんだんとお腹が空いてきた。甲府駅で一旦、下車し、なにか食べれる場所を探す。時刻は8時過ぎ。甲府駅+朝食で調べてみると、丸政という蕎麦屋さんがよさそうなので、行ってみる。かけそばにトッピングとして山賊揚げをつける。麺大盛り無料が嬉しい。山賊揚げがとてもジューシーで濃いめの味付けで満足な一品だった。蕎麦が美味しい地域だ。

■列車は続く

甲府駅を8:50に出発し、ふたたび松本方面へ向かう。小淵沢という駅に停車したとき、ふと中学3年生の春休みを思い出していた。仲間たちとスキーにいき、仲間の一人の親戚の家に3日間泊まらせてもらった。自分にとって初めてのスキー体験だった。すずらんの里という駅に夜な夜な到着した記憶がある。そんなことを思い出したら、今度は中2の自然教室を思い出した。それは福島県にある金山町というところだ。記憶が連鎖し、過去と今を未来へつないでいく。

徐々に人が増えてきて、町に近づいているのかという気がしてきた。10:45に塩尻駅に到着。そこから中央本線を乗り換える。2両編成のローカル列車は、スイカが使えないらしく、少し焦る。甲府駅からICで乗車していたので、下車するときに運転手に現金精算。面倒だなと思いつつも、この不便さが旅だということにも気づく。トラブルに遭ったり、予期せぬことに直面したり、そして、それは解決していけばいいということ、自分の力でなんとかしていくということ、忘れていたな。これも旅する力だ。

■奈良井宿を歩く

塩尻からのローカル線は、山奥の地方線にしては電車内が混雑していたが、奈良井駅に到着すると大半が下車した。ほとんどの人の目的地は、同じようである。外国人の観光客も多い。奈良井駅は、思ったよりも小さな駅だ。改札を出て、左へ向かうと、すぐに宿場町跡であるメインストリートにたどり着く。

第一印象は、江戸時代へタイプスリップしたという感覚だ。古い木造建築が、道の両側にずらりと並び、それがどこまでもまっすぐ伸びて続いている。ニセモノではない、歴史と伝統を感じる。保存状態もよさそうだ。観光地ではあるものの、ここに暮らす人々の生活があることも同時に感じられる。

鳥居峠の山道を歩いてみる。思ったより、本格的なハイキングというか登山っぽくなってきた。クマに注意という看板もある。江戸から京都まで中山道を歩いた人たちにとって、この峠は難所であったらしい。信濃と美濃の国境に向かう道である。峠のキリのいいところで折り返そうと思ったが、時間と体力的に困難と判断し、途中で引き返した。なかなか大変。

「いずみのコーヒー」という古民家風カフェに立ち寄る。内装がとても素敵で、店員さんの感じが丁寧で、ジャズが流れていた。アイスコーヒーをいただき、ひと休憩。

奈良井宿では、「きむら」で五平餅、「てずから」のおやき(野沢菜がいい)、「会津屋」のせんべい、「さつき庵」でバニラソフトを食べ歩き。よく食べた。どれもおいしい。木曽の大橋がかかる河原で、ベンチに座り、川の流れがいい風景だった。

そろそろいいかなと思い、ここでの宿泊はせずに、松本へ。時刻は4時で、今夜の寝床を考え始めた。

■松本の夜

松本駅へ到着した。宿どうしようかなど考えていると、ホテルエムマツモトというカプセルホテルが、たまたま空室が出て、予約ができた。運の風向きはいい。施設も新しくきれいで、必要なものはそろっている。悪くないホテルだ。

近くに「松本つなぐ横丁」という場所を見つけて、「焼き鳥番長」という店に入った。カウンター席でひとり座り、松本クラフトビールというペールエールを飲む。馬刺しが美味しい。焼き鳥は、席にあるタレをつけて食べたが、このタレも美味しい。

旅先で酒を飲むようになった。それは40歳あたりになってからだ。昔は旅中に酒をやるという習慣はなかったけれど。日が暮れて暗くなり、当地の酒を味わうというのもいいものだと気づいた。新しい習慣になっている。

酒に加えて、当地での有名ラーメンを探すのも習慣だ。「佐蔵」という店が、人気店らしく、店の前には行列ができていた。30分ほど並び、味噌ラーメンと、佐蔵飯という小さい丼、そして信州味噌餃子とフルフルセットをがっつり頂いた。店は古い蔵を改装したつくりで、その雰囲気もとてもよかった。

■お城

2日めの朝。正午の松本駅発「あずさ」まで時間が少しある。国宝・松本城へ行ってみた。前日に調べたところゴールディンウィークのせいか、入場に60分待ちという時間もあった。朝8:00開場のようだったので、30分前に到着。早くも列ができていたので、それに並ぶ。おかげで待ち時間なく入ることができた。

松本城は、現存12城郭の1つであり、国宝だ。黒い天守閣が特徴的で印象的である。かっこいい。古びた木造の内部は、ところどころでガタがきているが、保存状態はいい。木造建築のすごさ、作った人たちの技の匠を感じた。階段は急な上りになっている。五階からの眺めがとても素晴らしい。月見櫓の空間がよかった。

城を出て、レンタサイクルで町中を走る。蔵がたくさん並んでいることに気づいた。その一つ、竹風堂という和菓子屋さんが老舗感あり、栗つぶあんのどら焼きを買って食べる。

■ブラックジャック

松本市立美術館へ到着。すぐに、草間彌生の作風に気づく。

特別展でブラックジャック展を開催していた。小学生の頃、家に漫画があってよく読んでいた。展示しているコマやセリフやストーリーに触れて、あの頃のことを思い出していた。この漫画が、自分の人生観に大きな影響を与えていたことに、ふと気づいた。人格形成の土台や栄養になっている。ショップで、ピノコの手ぬぐいに一目惚れして購入。

電車が出発する前に、駅ナカの「からあげセンター」で山賊焼きを最後に食べようと思ったら、停電のせいでお店が一時休止していたようだった。しかたない。近くにあった、小木曽製粉所という蕎麦屋さんでざるそばと山賊焼をいただく。これが冷たくて麺がぎゅっとしまっていてとても美味しかった。

12:10、松本駅発のあずさに乗って、旅は帰路へと向かった。

■あとがき

駆け足でかけ抜けた奈良井宿・松本の旅。なんとなく行き先を決めて、たまたま良いものに出会うことが、旅に彩りを与えてくれた気がする。まだ見たこともない、知らない日本の風景があって、それをまた一つ発見することができた。

【完】