台湾2023

2023年、台湾の旅

旅程:2023年5月5日−6日(滞在6時間)

■コロナを越えて

2020年、世界中に広がった「新型コロナウィルス」、covid-19。世界中のあらゆる人に影響を与えて、社会の形を一変させ、当たり前だったものが当たり前でなくなった、それはとても大きな出来事。渋谷の交差点から人が消え、緊急事態宣言なるものに初めて触れ、小中学校が臨時休校となり、ステイホーム、マスクマスクマスク、できるかぎり人と距離を取るように。

旅人たちにとっては、「海外に行ってはいけない」とまさか社会から言われることになるとは、という感じで、旅することができなくなり、日本の観光地からインバウンドなお客様が消え、それどころか都道府県の境を超えるなというレベルにもなり、旅人たちには大きな逆境であった。

その間、自分なりに考えた旅のカタチ。まず、早々に海外旅行は諦めたと言うか、しばらくお休みすることは、わりと素直に受け入れた。ビビったのかもしれないし、検査なんやらがただ面倒で億劫だったという理由もある。そもそも時間が取れないという理由もあった。

逆に、国内に目を向けることができる良い機会にもなった。妻の実家である京都・奈良近辺は、外国人観光客がすっかりいなくなったので、お寺巡りには絶好の機会となった。実際、誰もいない銀閣寺や南禅寺、龍安寺などの庭園で、静かな時間に触れることができたのは、とても幸運だったように思える。人がいないのが、本来のお寺の姿だと気づいた。静寂の中に、味わいがある。

他にも、しまなみ海道をサイクリングしたり、国境である対馬まで行ってみたり、国内にも素晴らしい場所がたくさんあるということに気づくことができた。空いていることがありがたいと思った。

そうこうしているうちに、3年が過ぎた。気がつけば、世界中で人の動きは再開してきた。海外旅行は解禁され、世の中は通常モードになった。コロナを越えたのだ。思い返せば最後に海外に行ったのは、2018年のスリランカ。そこから5年間、海外へは行っていなかった。だいぶご無沙汰していた。そして、再開にふさわしい目的地は、台湾でありたいと思った。

■ただいま、台湾

ゴールデンウィークにわずかながら時間がとれたが、行ってみるかどうかで迷った。ためしに格安航空券を探してみると、LCCのスクート航空で空席がある。来週のチケット。一泊どころか、ほぼゼロ泊な日程になるけれど、とにかく日本から出てみたい、今の台湾を見てみたいと思った。チケットを取った。あとは、なんとかなるだろう。

成田空港へ向かうエクスプレスの中で、今夜の寝るところをどうしようか考えていた。午後に台北に着いて、その翌朝は6:45という早朝便。朝4時には空港到着というスケジュールを考えると、もう空港のベンチで仮眠でもいいかもしれないと思った。調べるうちに、桃園空港の中にあるカプセルホテルに、1つ空きがある。これは幸運だ。ブッキング・ドットコムで早速予約。ロケーションもよく、値段もリーズナブルで、ちょうどいい。

成田空港に到着した。懐かしい。出発フロアには、旅客が多く行き交っていて、コロナは明けつつある、むしろ、ほぼほぼ明けていることを実感した。スタッフはマスクしたりしているけれど、にぎわいは確かに戻りつつある。手荷物検査や出国検査も、かなりデジタル化が進んでいて驚いた。出国検査も自動化されていて、パスポートへのスタンプ押印もなく、ここ数年でたしかに変化している。

搭乗ゲート前の本屋で、旅のおともにする本を物色し、沢木耕太郎「旅する力」の文庫本を選んだ。

黄色い機体のスクート航空は、席にモニターはないけれど、スマホやラップトップを持ち運ぶ時代に、モニターはなくてもいいかもなと思った。フライト中、乱気流とエアポケットのせいか、だいぶ揺れたが、現地14:20に台北桃園空港に無事着陸した。南国の熱気、漢字や英語の看板。台湾に来た。むしろ、台湾に帰ってきたなという感覚だった。

■街歩き

空港から台北市内までは、MRTで移動。16:30に台北駅へ到着した。街の様子をみて、懐かしさが蘇った。台湾人たちは相変わらず元気そうで、なんだか安心した。三越のビルを見て、前にここで待ち合わせしたなと思いだした。昼食を食べてないので、腹が減ってきた。台湾グルメを味わう。

台北駅近くにある「福州世祖」の胡椒餅。着いたら、一発目に食べたい定番。店員のおばさんに「アツイヨ」と受け取り、歩きながら食べる。熱々で、まわりの生地はパリパリ、中の肉はジューシーで、なにより黒胡椒のパンチが効いている。これが食べたくて、台湾に来たのだ。

西門町エリアまで歩いてみる。台湾6回目にして、初めて来た。活気ある繁華街で驚いた。友人に勧められた「阿宗麺線」を発見。店の周りは多くの人が立ち食いしていたけれど、並ばずにすぐ買うことができた。かつおだしが香ばしい。これは日本では流行するのではないかと思った。西門町をぶらぶらしながら見つけたお店で、あつあつの小籠包を食べる。

MRTで移動。民権西路駅で下車。駅前にでたとき、前にここ来たかとデジャブが起こった。台湾留学中だった友人の家を訪ねたとき、こんな光景じゃなかったっけという感覚だった。どうだったかなと不思議な気持ちになった。この駅から歩いて、お目当ての「丸林魯肉飯」というお店を探す。ようやく発見し入ると、店内は混雑していて、注文の仕方がわからない。まごまごしていると、店員のおばちゃんが、こっちこっちと手招きしてきれて、どれ食べる?これおすすめ!みたいに教えてくれた。空芯菜、豚の角煮、白菜炒めを頼み、名物らしい魯肉飯とはまぐりスープも頼む。どれも美味しい。ここはぜひまた来たいと思った。

食べ続けて、お腹がいっぱいになったので、散歩していると、日もだいぶ暮れてきたことに気づく。突然、どでかいお寺が現れて、ライトアップが美しく、つい吸い寄せられた。景福宮というらしい。ここは初めてだ。ふと龍山寺のことを思い返した。眠っていた記憶が蘇る。旅の記憶。消せないもの。

松江市場近くの小さな公園で、腰掛ける。夕暮れから夜のかけての淡い時間帯。南国の風が吹いていて、妙に心地よかった。ところどころで人々が座っていたり、談笑していたり、通り過ぎたり。街中にある公園は、人々が行き交う通過点。ぼんやりと、そんな景色を見ていた。

足裏マッサージに行くことにした。「活泉」というお店。MRT行天宮駅近くにある。前回の旅でも一度訪れていて、なかなかよかった記憶がある。今回は、足裏のみの60分コースで、990台湾ドル。担当してくれたおじさんが昔の職場の同僚によく似ていて、なんだか面白かった。チェアに座ってたところから目に入るテレビでは、日本の番組が字幕付きで流れていて、ダイゴがずっと料理をしていた。

近くの行天宮にも立ち寄る。夜は更けていて、ライトアップが美しい。こんな時間にも人々は多く訪れていて、祈りを捧げていた。信仰はいつも人々の生活のそばにある。そんな気がした。空を見上げたら、満月だった。

時間は夜9時を過ぎていて、最後に、夜市へいきたい。寧夏夜市を訪れる。台湾にはいくつもの夜市があるけれど、私はここが一番好きかもしれない。小ぶりで、グルメも美味しく、アクセスも便利だ。道の真ん中には食べ物の屋台がぎっしり並び、人々で混雑していた。コロナはすでに越えていて、いつもどおりの賑わいを取り戻しているように感じられた。活気を感じる。それがなんだか嬉しい。

前回、ここで一番おいしいと記憶に強く残ったのは、台湾おにぎり。お店の名前は、「阿婆飯糰」。同じ場所にあるかなと思って、そこへ向かってみた。見つけた。しかし、並ぼうとしたら、「今日はもう売り切れだよ」と言われてしまい、がっかり。時計を見たら10時になろうとしていた。しかたない。周辺をぶらぶらしていたら、台湾おにぎりを意味する「飯糰」という看板が目に入り、もしや?とそこに向かった。裏路地を少し入った、目立たない場所で、ひっそりと屋台をやっていた。そこで1つ作ってもらう。硬めのもち米に、いろんな具材や、揚げパンのようなものがはいっていて、これだこれだとほおばる。とても美味しかった。食べれてよかった。

夜市をあとにして、台北駅へ向かう。途中で、「苦茶之家」のお店を見つけた。初めて台湾に来たとき、知人に連れてきてもらって、ここで苦い苦いお茶を飲んだ記憶が鮮明だ。そのあと、別の仲間と台湾を旅したときにも、再訪した。思い出のお店の1つだ。

台北駅からMRTで桃園空港へ向かう。夜の電車は、学校帰りや仕事帰りの人々を静かに運ぶ。疲れのような、金曜夜の開放感のような、独特な感じがあった。駅の周りは街の灯りが明るいけれど、郊外に出ればもう窓の外は暗闇と静寂が広がっている。一日が終わり、長い夜が始まっていた。

桃園空港の第二ターミナルの中に、今夜の宿はある。カプセルホテルだけれど、新しく、おしゃれで、スタッフの対応も非常に丁寧だ。英語で簡単に説明してくれる。10人部屋のドミトリーは、日本のカプセルホテルとほぼほぼ似ている。 https://chostay.com/

時刻は11時を回っていて、疲れもあり、そのままベッドに横たり、眠りに落ちた。

■再見

朝4時。フライトのチェックインをするために、早々にホテルを出る。眠れたような、深く眠れてないような、仮眠のような夜だった。ホテルはスムーズにチェックアウト。持っていた雑誌(ブルータス台湾特集)は、お礼に宿の本棚に寄付した。旅人から旅人へと手渡っていくだろう。スカイトレインで、第1ターミナルへ。ロビーのベンチでは、仮眠をする人が大勢横たわっていた。

わがスクート航空のチェックインも無事できた。オーバーブッキングとか欠航とか心配事がなくなり、ソワソワした旅もようやく終わりへの目処がつく。早朝なので店もほとんどやっていない。缶コーヒー飲んだり、スマホで新聞読んだりしながら、まったり時間をつぶした。

6時くらいにようやく食堂が動き始め、最後の台湾ドルを使って、牛肉麺を食べた。優しくて温かくて美味しい。

フライトは予定通り桃園空港を離陸、空中では今までにないくらい機体は揺れいていて、機内もざわいついたけれど、成田空港へは予定より20分ほど早く着陸。早くつくことってあるんだなと初めて思った。

■旅のあとがき

滞在は約6時間。これまでの人生の海外渡航の中でも、ずばぬけて最短滞在時間だ。ストップオーバーの感覚に近いかもしれない。もうコロナは明けていて、台湾も元気だった。昔の友に再会したような気分だ。なんだかホッと安心した。相変わらず、飯はうまい。言葉はなかなか通じないけど、台湾の人々はとても親切だ。屋台、お店、コンビニ、ところどころで。今回は全くスマホを使わずに旅することを試みた。スマホなしでも旅はできる。でも地図は必要だ。なんとなくの目的地は必要だ。お目当てのお店があれば、ずっといい。その過程の中で、思いかげないものに遭遇する。それが旅の面白さだ。

また旅を再開することができる。そんな手応えがしっかり残る旅だった。

【完】